父の従姉妹のおばあちゃんの成年後見申立て。 |
相談の概要 父の従姉妹のおばあちゃん(満90歳)が私の両親と仲がよかったので,私の両親が亡くなった後も親しく付き合っていたのですが,おばあちゃんが1ヶ月前に自動車にはねられて大けがをしてしまいました。おばあちゃんは結婚したことがなく,一人っ子だったようで,身寄りはないようでした。おばあちゃんは命は取り留めたものの,残念ながら,お医者様から今後長期間意識の回復は見込めず,成年後見相当であると説明されました。 他方で,はねた人の保険会社から連絡があり,賠償をしたいがそのためにはおばあちゃんに成年後見人が必要だと言われました。 しかし,いったい何のことかよく分かりません。いったいどうすればよいでしょうか。 |
ご回答 成年後見制度とは,認知症,精神疾患等の原因で普通の人と同じような十分な判断能力が失われてしまった人について,裁判所が判断能力の状態に応じて成年後見人,保佐人,補助人を選任し,その方の権利の保護を図る制度です(民法7条〜21条)。 ところで,はねた人すなわち加害者の保険会社としては,おばあちゃんと和解して賠償金を支払いたいのだと思いますが,和解も契約ですから,おばあちゃんが和解するためには,おばあちゃんに和解について通常人なみの理解及び選択能力が必要となります。このような「その法律行為についての通常人なみの理解及び選択の能力を」難しい言葉では「意思能力」といいます*1。意思能力について民法に直接規定した条文はありませんが,当然の前提であると解釈されており,その趣旨を明らかにした判例もあります(大判明治38年5月11日民録11ー706)*2。 したがって,このままではおばあちゃんは加害者側と和解することができず,損害賠償を受け取ることもできないことになります。 そこで民法は,成年後見制度を設け,恒常的に意思能力が失われたかあるいは不十分となった人については,家庭裁判所が成年後見人,保佐人,補助人といった保護者を選任することにより,その人の能力不足を補わせることとしています(民法7条,8条,11条,12条,16条,17条)*3。 この成年後見制度における後見開始,保佐開始,補助開始の申立権者ですが,民法は@本人,A近親者として配偶者,4親等内の親族,B保護関係の変動に対応するためとして未成年後見人,未成年後見監督人,保佐人,保佐監督人,補助人,補助監督人,後見人,後見監督人,C公益的見地から検察官を申立権者としているだけです(民法7条,民法11条,民法15条)。このほか成年後見の申立てができる者として,老人福祉法32条が「65歳以上の者につき,その福祉を図るため特に必要があると認めるときに」市町村長に成年後見,保佐,補助開始の審判の申立権を認め,精神保健及び精神障害者福祉に関する法律51条の11の2が,「精神障害者につき,その福祉を図るため特に必要があると認めるときに」市町村長に成年後見,保佐,補助開始の審判の申立権を認めているだけです。 相談者の方とこのおばあちゃんとは,5親等の親族(血族)に当たると思いますから,相談者の方が家庭裁判所におばあちゃんの成年後見人の選任を申し立てることはできません。 しかし,このおばあちゃんは満90歳で身寄りもないということなので,老人福祉法32条による市町村長申立てが可能な場合であると思われます。おばあちゃんの住民票のある市長村の市役所・町村役場に成年後見の申立ての相談をしてみて下さい。 |
弁護士 田上尚志(平成24年11月10日,平成26年04月01日加筆修正) |
参考文献 *1,*3 遠藤 浩・川井 健・原島重義・広中俊雄・水本 浩・山本進一編集 有斐閣 「有斐閣双書 民法(1)総則[第4版増補補訂版]」40頁 *2 内田 貴 東京大学出版会 「民法T[第2版]補訂版 総則・物権総論」101頁 |
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