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市町村長による成年後見の取消の申立て

 相談の概要

 市役所で老人福祉法32条,知的障害者福祉法28条,精神保健及び精神障害者福祉に関する法律(精神保健福祉法)51条の11の2に基づく市町村長による成年後見申立ての業務を担当しています。
 以前,後見相当状態にあった方について市長による成年後見開始の申立てを行い,後見人が選任されました。その後,幸いこの方が回復され,後見も保佐も補助も必要ないような状態になり,ご本人が後見の終了を希望されています。市役所としてはどのように行動すればよいでしょうか。市町村長が成年後見の取消の申立てをすることはできますか?。  

 ご回答
 
 事件本人が能力を回復したからと言って,何もしなくても成年後見,保佐,補助が終了するというわけではありません。事件本人の能力回復の場合,後見,保佐,補助はそれぞれ後見開始の審判の取消の審判,保佐開始の審判の取消の審判,補助開始の審判の取消の審判によって終了することになります(民法10条,14条,18条,家事審判法9条甲類1号,2号及び2号の2,家事事件手続法39条別表第1第2項)。
 ところで,老人福祉法32条,知的障害者福祉法28条,精神保健福祉法51条の11の2は,市町村長に成年後見,保佐,補助の申立て権限を認めていますが,これらを終了させる審判の申立権限は認めていません。
 したがって,開始の申立ての時のように市役所ないし市町村役場(市町村長)が主体的に関与するということはありません。他方で,後見開始の審判の取消の審判,保佐開始の審判の取消の審判,補助開始の審判の取消の審判は,本人,配偶者,4親等内の親族,後見人,後見監督人,保佐人,保佐監督人,補助人,補助監督人又は検察官に申立権限が認められていますので(民法10条,14条,18条,家事審判法9条甲類1号,2号及び2号の2),本件では市役所(市長)としては,ご本人及び後見人に対するアドバイスという形で関与することになると思います。
 そこでまず確認しなければならないのは,本当にご本人が後見も保佐も補助も必要ないような状態になったかどうかです。というのも,例えば統合失調症の場合,患者本人に病識がないことがその特徴的な症状の1つであり*1,ご本人が回復を主張したからといって直ちに後見,保佐,補助相当の状態から脱したとは言えないからです。また,後見開始の審判の取消の審判,保佐開始の審判の取消の審判,補助開始の審判の取消の審判の審判の申立てには医師の診断書(成年後見用診断書)が必要となりますので,どのみちこの確認をしなければならないことになります。
 医師の診断書において,後見相当,保佐相当,補助相当の状態を脱したとされている場合には,事件本人ないし後見人,保佐人,補助人から後見開始の審判の取消の審判,保佐開始の審判の取消の審判,補助開始の審判の取消の審判の申立てをすることになりますが,この申立ても後見事務,保佐事務,補助事務の範囲に含まれると思われますから,通常は後見人,保佐人,補助人から申し立てることになると思います。
 もし,後見人,保佐人,補助人がこれを拒む場合には,ご本人から申し立てていただくことになります。その際に弁護士を紹介するような関与の仕方はあると思います。
 なお,従前の家事審判法では,被後見人の方が後見開始の審判の取消事件について手続行為能力があるか明らかでなかったのですが,平成25年1月1日に施行された家事事件手続法では,被後見人の方の手続行為能力が明定されています(家事事件手続法118条2号)。
弁護士 田上尚志(平成24年11月10日,平成26年03月30日加筆修正) 

 参考文献


 *1
 片桐秀晃(広島県三原病院・診療部長) 「統合失調症(維持療法とリハビリテーション)」 (医学書院「今日の診療プレミアムVol.19」収録 )

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