本文へスキップ

島根県益田市の法律事務所。田上法律事務所です。

電話でのご予約・お問い合わせはTEL.0856-25-7848

〒698-0027 島根県益田市あけぼの東町13番地1 赤陵会館2階

試用期間・有期労働契約。


 相談の概要

 歯科診療所を開業している歯科医師です。父も歯科医師で,私は2代目になります。今度新しく歯科医師を雇うことになり,それに応じて歯科衛生士も増員することにしました。
 ただ,今いる歯科衛生士は私の父の代からの方ばかりですし,今度私の診療所に来ることになった歯科医師も私の大学の後輩で気心も知れているから良いのですが,新しく歯科衛生士の募集をするとなると,どんな方が来るのか,どれくらいの能力の方が来るのか分かりません。1回2回面接しただけでは分からないので,その方の能力を見極めて採用したいのですが,どうすれば良いでしょうか。       

 ご回答

 採用に当たって試用期間を設けるか,あるいは当初有期労働契約として雇用し,実力を踏まえた上で通常の労働契約に切り替えることをお勧めします。
 なお,試用期間とする場合,就業規則及び労働契約書に試用期間を明記しておくべきです。
 また,有期労働契約とする場合も,就業規則に有期労働契約の制度を採用することを明記し,労働契約の際,労働契約書に有期労働契約である旨を明記すべきです。

 試用期間とは,従業員の採用に関し,採用後一定期間を「試用」ないし「見習い」期間とし,この間に当該労働者の人物・能力を評価して正式採用するかどうかを決める制度です。試用期間の長さは3ヶ月程度とすることが多いようですが,それより短かったり,長かったりする場合もあります。ただし,試用期間の長さ1年間を超えるような場合には,公序良俗違反(民法90条)として違法行為となるおそれがあります。というのも,私が知る限り,裁判所が有効とした最も長い試用期間の長さは1年間だからです(「大阪読売新聞社事件」大阪高等裁判所昭和45年7月10日判決,大阪高等裁判所昭和42年(ネ)第140号事件)。
 私としては,じっくり見極めたいということであれば,3ヶ月よりむしろ6ヶ月くらいの試用期間を設けた方が良いのではないかと思います。なお,試用期間を設けるのであれば,退職に関する事項に該当しますので,試用期間制度を採用することやその期間に関する規定を就業規則に設けるとともに(労働基準法89条3号),採用時に試用期間を設けることや試用期間の内容等を労働者に対して書面で明示する必要があります(労働基準法15条1項,労働基準法施行規則5条1項4号,同2項,同3項)。
 なお,試用期間であれば,通常の雇用に比べてより広く解雇が認めらると思われますが,無条件で解雇が認められるわけではありません。試用期間後の解雇も解雇に変わりはありませんから,解雇に当たっては合理的な理由が必要であり(労働契約法16条),雇用主としては解雇時に解雇の理由を示す必要があります。例えば,歯科衛生士であれば,@無断遅刻,無断早退,無断欠勤をしないという社会人としての素養から,A患者様への挨拶・応対がきちんとできること,B歯科予防処置(フッ素塗布,歯石の除去等),歯科医師に対する歯科診療補助,歯科保健指導(歯みがき指導,入れ歯の使い方の指導等)といった歯科衛生士の業務について十分な知識,技術があるかどうか,C歯科模型,矯正装置や歯科材料の管理がきちんとできるかどうかなど,歯科衛生士として勤務するのに十分な実力を有しているかを見極める必要があり,解雇するのであれば,これらの事項に関し採用できないとする理由を明確に労働者に説明できなければなりません。
 ところで,試用期間中の労働者は,採用から14日以内に解雇するのであれば,30日前の解雇予告や30日分以上の平均賃金の支払いを義務付ける労働基準法20条の適用はありません(労働基準法21条)。他方で,試用期間中の労働者を14日を超えて雇用し続けるのであれば,30日前の解雇予告や30日分以上の平均賃金の支払いを義務付ける労働基準法20条が適用されることになります。したがって,試用期間中の歯科衛生士の方の見極めのタイミングとしては,労働基準法20条の適用のない14日以内,解雇予告のタイミングとの関係で試用期間終了前30日,試用期間終了日の3つがあることになります。

 次に,有期労働契約とは,予め期間を決めて労働契約を締結する方法であり,その期間は原則3年までとされています(労働基準法14条1項)。試用を目的に有期労働契約を締結しておいた場合,雇用期間満了を理由に雇用関係を終了させることができるので,歯科衛生士さんの実力に不安があるなら,試用期間を設けての雇用よりも当初から有期労働契約として契約しておいた方が良いかもしれません。但し,2年とか3年とかの有期労働契約であればともかく,3ヶ月とか6ヶ月の有期労働契約を締結した場合には,その目的が試用にあると判断され易くなるので,あくまで正式雇用(期間の定めのない雇用)に改めるかどうかは可能性の一つにすぎず,勤務状況によっては雇用期間の満了時に雇用契約を予定通り終了することも十分ありうることを契約時に明示しておく必要があります。
 ところで,有期労働契約も退職を生じる場合に変わりはありませんから,退職に関する事項に該当しますので,有期労働契約制度を採用することやその期間に関する規定を就業規則に設けるとともに(労働基準法89条),採用時に書面で有期労働契約であることや有期労働契約の更新の有無を明示し,更新する場合がある旨明示したときは同じく書面で更新の判断基準を明示しなければなりません(労働基準法15条1項,労働基準法施行規則5条1項1号,同1項1号の2,同2項,同3項)。明示すべき「更新の有無」については,@自動的に更新する,A更新する場合があり得る,B更新しないの3通りがあると思いますが,本件では,「更新する場合があり得る」と明示することになります。そして,更新の判断基準として,試用期間の場合と同様,@無断遅刻,無断早退,無断欠勤をしないという社会人としての素養から,A患者様への挨拶・応対がきちんとできること,B歯科予防処置(フッ素塗布,歯石の除去等),歯科医師に対する歯科診療補助,歯科保健指導(歯みがき指導,入れ歯の使い方の指導等)といった歯科衛生士の業務について十分な知識,技術があるかどうか,C歯科模型,矯正装置や歯科材料の管理がきちんとできるかどうかなど,歯科衛生士として勤務するのに十分な実力を有しているかを見極めるための各事項を判断基準として明示することになると思います。
 有期労働契約を締結した場合,やむを得ない場合でなければ期間満了前の解雇はできません(労働契約法17条1項)。また,有期労働契約の場合も30日前の解雇予告や30日分以上の平均賃金の支払いを義務付ける労働基準法20条が適用されることに変わりはありません。

 ところで,試用期間も,有期労働契約も労働契約ですから,労働者たる歯科衛生士さんに良く説明し,契約書を取り交わす等して書面で確認するようにして下さい(労働契約法4条)。どのような契約書や書面を作成するかは,弁護士や社会保険労務士と相談するようにして下さい。

 なお,試用期間,有期労働契約の結果,正式採用に移行せず解雇する場合には,労働者の求めに応じて,退職証明書,解雇証明書の交付が必要となります(労働基準法22条1項,同2項)。     
弁護士 田上尚志(平成25年11月14日) 

 参考文献・HP


 法律学講座双書「労働法」第7版補正(菅野和夫著・弘文堂)
 大阪高等裁判所昭和45年7月10日判決(大阪高等裁判所昭和42年(ネ)第140号事件,「大阪読売新聞社事件」)(労働判例112号35頁登載のもの)
 「勤務成績不良を理由とする試用期間中の解雇ーオープンタイドジャパン事件」(渡邊絹子 ジュリスト1256号199頁)
 「テーダブルジェー事件」労働判例809号74頁
 厚生労働省のHP(http://www.mhlw.go.jp/bunya/koyou/other25/)  

田上法律事務所 田上法律事務所

〒698-0027
島根県益田市あけぼの東町13番地1
赤陵会館2階
TEL 0856-25-7848
FAX 0856-25-7853