相談の概要 数ヶ月前に交通事故で妻を失いました。私と妻が妻の運転でドライブしていたところ,対向車がセンターラインをはみ出し,私たちの軽自動車に正面衝突したのです。私は軽傷で済みましたが,妻は事故の2日後に逝去しました。私も妻も65歳を超えており,主な収入は年金でしたが,私自身の年金だけでは生活が苦しいので,妻の逝去後直ちに遺族年金の手続をして,遺族年金の支給を受けていました。 ところが,先日加害者側の保険会社から賠償金を受け取ったところ,年金事務所から,今後3年分の遺族年金の支給を停止するとの通知がありました。いったいどういうことなのでしょうか。 |
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ご回答 国民年金法,厚生年金法には,第三者に対する損害賠償請求権と年金受給権が同一の事由によって生じた場合には,年金の支給を停止する旨の規定があります。本件は,奥様の交通事故死に関する貴方の損害賠償請求権と遺族年金受給権が同一の交通事故から発生していますので,年金の支給が停止されることになります。 但し,現時点において,遺族年金の支給停止期間は最大36か月とされていますので,それ以後は遺族年金が支給されると思います。 国民年金法22条1項は,「政府は,障害若しくは死亡又はこれらの直接の原因となつた事故が第三者の行為によつて生じた場合において,給付をしたときは,その給付の価額の限度で,受給権者が第三者に対して有する損害賠償の請求権を取得する。」と規定し,同2項は「前項の場合において,受給権者が第三者から同一の事由について損害賠償を受けたときは,政府は,その価額の限度で,給付を行う責を免かれる。」と規定しています。また,厚生年金保険法40条1項は,「政府等は,事故が第三者の行為によつて生じた場合において,保険給付をしたときは,その給付の価額の限度で,受給権者が第三者に対して有する損害賠償の請求権を取得する。」と規定し,同2項は,「前項の場合において,受給権者が,当該第三者から同一の事由について損害賠償を受けたときは,政府等は,その価額の限度で,保険給付をしないことができる。」と規定しています。これらの規定の趣旨について,最高裁(最高裁判所第3小法廷 昭和50年(オ)第431号損害賠償請求控訴同附帯控訴事件昭和52年5月27日判決)は,「受給権者に対する第三者の損害賠償義務と政府の保険給付又は災害補償の義務とが,相互補完の関係にあり,同一事由による損害の二重填補を認めるものではない」と判示しています。 したがって,貴方のように,損害賠償請求権と遺族年金受給権が同一の交通事故から発生した場合には,遺族基礎年金と遺族厚生年金が支給停止となります。 ただし,国民年金法22条,厚生年金保険法40条では,受け取った損害賠償の額に満つるまで年金の支給を停止できるように読めますが,厚生労働省の通知により,現在,遺族基礎年金と遺族厚生年金の支給停止は最大36ヶ月分とする運用がなされています(「厚生年金保険法及び国民年金法に基づく給付と損害賠償額との調整の取扱いについて〔厚生年金保険法〕 平成27年9月30日 年管管発0930第6号 日本年金機構年金給付業務部門担当理事あて厚生労働省年金局事業管理課長通知」,「「厚生年金保険法及び国民年金法に基づく給付と損害賠償額との調整の取扱いについて」の一部改正について〔国民年金法〕 平成30年11月21日 年管管発1121第1号 日本年金機構年金給付業務部門担当理事あて厚生労働省年金局事業管理課長通知」)。 |
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参考文献 堀 勝洋「年金保険法〔第4版〕(法律文化社) 厚生労働省のHP (https://www.mhlw.go.jp/web/t_doc?dataId=00tc2479&dataType=1&pageNo=1) (https://www.mhlw.go.jp/web/t_doc?dataId=00tc3757&dataType=1&pageNo=1) |
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弁護士 田上尚志(令和元年10月22日) |
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