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第三セクターの清算。

 相談の概要

 市が中心となって設立された第三セクターの株式会社に私も出資し,株主になっているのですが,最近,この第三セクター株式会社について市が清算させる方針であるとの新聞記事を目にしました。この第三セクター株式会社は数年間赤字が続いて1億円くらいの債務超過になっていると株主総会で説明されていたのですが,なぜ破産ではなく清算になるのでしょうか。そもそも清算とはどのような手続なのでしょうか。      

 ご回答

 市は,自らの有しているその第三セクター株式会社に対する債権を放棄したり,事業譲渡をさせるなどしてその第三セクター株式会社に累積赤字を解消し,その後その第三セクター株式会社の残余財産を各株主に分配し,その第三セクター株式会社を消滅させようとしているのだと思います。
 ただし,現実にはあなたが残余財産の分配を受けることは期待できないと思います。

 「第三セクター」とは,日本では,国又は地方公共団体(第一セクター)が民間企業(第二セクター)と共同で設立した法人を指すとされています。この意味での第三セクターという用語が日本で公式文書に初めて用いられたのは、1973年(昭和48年)に第2次田中角榮内閣の元で閣議決定された「経済社会基本計画」であるようです1)
 「第三セクター」について直接規律した法律はなく,当該第三セクター法人に対しては,その法人の種類に対応した法律が適用されます。本件では,第三セクターたる株式会社ということなので,会社法が適用されます。

 本件の第三セクター株式会社においては清算が検討されているとのことです。株式会社の清算とは,概ねその会社の事業を終了し(現務の結了),債権の取立て及び債務の弁済を行い,残余財産の分配を行う手続です(会社法481条)。株式会社の清算については会社法が詳細な規定を置いており,清算手続においては清算人が置かれることになっています(会社法477条1項)。
 もっとも,債務超過の場合には通常の清算手続を終了することはできません。たとえ清算手続を開始しても,債務超過の疑いがある場合には,清算人は,裁判所に特別清算開始の申立てをしなければならないとされているからです(会社法511条)。
 したがって,本件の第三セクター株式会社を通常の清算手続で処理しようとするのであれば,事前に何らかの方法で債務超過解消の目処を立てておく必要がありますが,おそらくこの第三セクター株式会社は市が最も出資比率が高いと思いますし,市はこれまでの赤字について一定額の補填等もしているでしょうから,市はこの第三セクター株式会社の事業譲渡と市の債権の放棄,他の会社債権者に対して市が債権放棄を要請する等して債務超過を解消しようと考えているのではないでしょうか。
 もし,債務超過が解消しないのであれば,特別清算手続に移行するか,または破産手続に移行することになると思いますが,それだと手続が通常の清算手続よりもかなり煩瑣になり,特に破産手続では清算が裁判所が選任する破産管財人の主導で行われ(破産法74条),市主導の清算ができなくなることや,この第三セクター株式会社は市の活性化やこの市の産業構造にとって重要であり,市としては受け皿企業を準備して事業自体は保護したいといった目的があるために,ご質問のような手続が議論されているのではないかと思います。

 ただし,上記のような事情であれば,この第三セクター株式会社が事業譲渡をしても,譲渡代金は債務超過の解消に必要な限度額にとどまると思われますので,あなたが最終的に配当を受けることまでは期待できないと思います。     
弁護士 田上尚志(平成30年07月29日) 

 参考文献・HP

  1) ウィキペディア「第三セクター」  

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