株式会社の取締役の辞任の登記。 | ||
相談の概要 株式会社の取締役として登記されています。 経営方針の違いや代表取締役が私に会社の経営状態に関する情報を一切出さなくなったので,内容証明郵便で辞任の意思表示をし,退任登記をするよう申し入れました。 ところが先日,この代表取締役から連絡があり,「あなたが法務局に出向き,自分で辞任の申入れをして退任届を提出すれば,法務局が退任登記に応じてくれるから,あなた自身で登記手続きをして欲しい。」と言われました。本当に私が法務局に出向いて手続きをすれば,退任登記ができるのでしょうか。また,今後の対処法について教えて下さい。 なお,私の会社には取締役がこの代表取締役と私を含めて4人おりますが,取締役会は設置されていません。 |
||
ご回答 あなたが取締役の退任登記手続きをすることはできません。 どうもその代表取締役に誤解があるようなので,再度登記手続きをするよう申し入れ,それでも登記をしないのであれば,訴訟を起こすことになります。 会社法は,取締役設置会社の取締役は3名以上でなければならないと規定している(会社法331条4項)ほかは,取締役は1名でも良いとしています(会社法326条1項)。そして,会社と取締役の関係は委任契約ですから(会社法330条,329条1項),あなたの会社が取締役会設置会社でなく,取締役がその代表取締役とあなたを含めて4名いるのであれば,定款に特段の定めがない限り,あなたは自由に取締役を辞任しうることになります(民法651条1項)。 そして,取締役の辞任の意思表示を記載した内容証明郵便が会社に到達した以上,辞任の意思表示は効力を生じており(民法97条1項),会社法上,2週間以内にその本店の所在地において,取締役の退任の登記をしなければならないとされています(会社法915条1項,911条3項13号)。この登記は,いわゆる商業登記であり(商業登記法6条,54条),その申請権者は当該株式会社(代表取締役)であるため(商業登記法14条,17条2項),あなたが法務局に出向いて自分で取締役の退任登記の手続きをしたいと思っても,原則として登記官が受けつけてくれることはありません(商業登記法14条,24条4号)。 もっとも,登記は代理人によって行うことができるとされていますので(商業登記法17条2項),代表取締役の委任状があれば,あなたの方で登記を申請することも可能です。話がスムーズに進むのであれば,登記を実際に担当する弁護士や司法書士とあらかじめ相談し,その弁護士ないし司法書士に対して退任登記を委任する旨の委任状をその代表取締役に交付させ,その委任状に基づいて退任登記を実現することになるでしょう。 したがって,その代表取締役に退任登記の委任状を出すよう話をしてみて,委任状を出してもらえるのであれば,そのままその委任状を用いて登記をすればよいことになります。なお,この際の退任登記の申請書には、退任を証する書面として辞任届の添付が必要です(商業登記法54条4項)。 他方,委任状の交付も拒否するのであれば,会社に対してあなたが取締役を辞任した旨の登記手続きをなすことを求めて訴えを提起することになります(昭和60年3月27日福井地方裁判所判決(昭和60年(ワ)第5号取締役辞任登記手続請求事件)等)。 |
||
弁護士 田上尚志(平成25年01月19日) | ||
参考文献・HP |
〒698-0027
島根県益田市あけぼの東町13番地1
赤陵会館2階
TEL 0856-25-7848
FAX 0856-25-7853