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管財人から市役所税務課への不動産放棄の通知。

 管財人から市役所税務課への不動産放棄の通知。  

 相談の概要

 市役所で税務を担当しています。
 先日,ある株式会社の管財人弁護士から,私が勤務する市役所のある市の市内にその株式会社が所有している土地や建物を放棄するとの通知が届きました。これはどういう意味なのでしょうか。         

 ご回答

 翌年度以降のの固定資産税は破産財団から支払わないということです。

 固定資産税は,市町村が課税主体となる普通税(使途を特定せず,一般経費に充てるために課される租税。一般税とも言います。地方税法5条2項2号。但し,東京23区内では,区ではなく東京都が課税しています。地方税法734条1項)で,固定資産に対し,当該固定資産所在の市町村において課するものとされています(地方税法342条1項)。なお,ここに固定資産とは,土地,家屋及び償却資産とされ(地方税法341条1項),地方税法341条1号乃至4号にに詳細な規定があります。固定資産の納税義務者は,固定資産の所有者ですが,この「固定資産の所有者」とは,固定資産課税台帳(地方税法341条9号)に登録された者であり,登記の有無とは必ずしも一致しません(地方税法343条)。
 そして,固定資産税の賦課期日は,当該年度の初日の属する年の1月1日とされており(地方税法359条),1月1日時点における所有者が1年分の納税義務を負うことになります。

 他方,固定資産の所有者が破産した場合,その固定資産の所有者の財産は,概ね評価額合計99万円までの部分を除いて破産財団として破産管財人の管理下に置かれることとなります(破産法2条12項,破産法2条14項,破産法78条1項,破産法34条3項乃至7項)。破産手続は,基本的に支払不能となった債務者の財産を処分・換価し,破産法に従って債権者に配分する手続ですから,管財人は,固定資産を含めて債務者の財産を可能な限り売却換価し,配分に備えることになります。したがって,債務者の財産は,一定期間,破産財団を構成して破産管財人の管理下に置かれます。
 この破産法所定の配分方法の一つとして,他の破産債権の先立ち,破産手続によらないで弁済を受けることができる財団債権の制度があります(破産法2条7項,破産法151条)。固定資産税は,破産手続開始前に発生したものは,破産手続開始決定当時まだ納期限が到来していないか又は納期限から1年を経過していないものは,破産法148条1項3号所定の財団債権として弁済を受けることができ,破産開始手続決定後に1月1日が到来して発生したものは,その時点で管財人がその固定資産を換価または放棄しておらず,破産財団に保有し続けている場合には,破産法148条1項2号の財団債権として弁済を受けることができます。
 先ほど述べましたように,破産管財人は固定資産も含めて債務者の財産を売却換価するよう努力するのですが(破産法85条1項),たとえ土地と言っても,地方都市の不動産や農地・山林などであれば,買い手がつかず,売却が事実上不可能な場合もあります。そのような場合には,破産管財人は,当該不動産を破産財団から放棄して,次年度の固定資産税を破産財団から支払うことを回避するのです。
 したがって,破産管財人が土地や建物を破産財団から放棄する旨の通知を市役所に対してしてきたということは,翌年の固定資産税を破産財団から支払うことを避けるためにその固定資産を破産財団から放棄するということなのです。なお,破産管財人が破産財団から放棄した財産は,担保権の負担がある場合を除けば再び債務者が管理処分権を含めた完全な所有権を行使することになりますので,固定資産税も債務者たるその破産した株式会社が納税すべきことになります。なお,株式会社は破産開始決定によって解散しますが(会社法471条5号),だからといって直ちに消滅するわけではありません。本件のような場合には,破産管財人が不動産を放棄することによりその株式会社に残余財産が存在することになりますから,その破産した株式会社は清算法人として存続することになります(会社法476条)。

 しかし,営業を停止した破産株式会社が固定資産税を納税することは事実上不可能であろうと思います。
 加えて,その破産株式会社に対して納税を請求することも困難です。
 というのも,株式会社が破産した場合,代表取締役をはじめとしてその株式会社の役員はすべてその地位をいったん失うことになり,その株式会社は代表者不在の状態になってしまうからです。これは,株式会社と役員の関係は民法所定の委任契約に該当するところ(会社法329条,会社法330条),民法は「委任者又は受任者が破産手続開始の決定を受けたこと」を委任の終了原因としていることに基づくものです(民法653条2号)。この結果,代表者が必要となる場合には利害関係人の請求によって裁判所が清算人を選任すべきことになります(会社法478条2項。最高裁判所第二小法廷昭和43年3月15日判決(昭和42年(オ)第124号))。
 とはいえ,市役所が清算人の選任を申し立てる場合,その申立て費用や清算人の報酬が必要になります。現実には,固定資産税の納税が期待できない状態で清算人の選任を申し立てることは現実的ではないのではないでしょうか。
 なお,市役所が請求等によって時効を中断しない限り,固定資産税の徴収権は法定納期限の翌日から起算して5年間行使しないことによって時効により消滅します(地方税法18条)。     
弁護士 田上尚志(平成25年02月23日) 

 参考文献・HP


 大阪地方裁判所・大阪弁護士会破産管財運用検討プロジェクトチーム編集 新日本法規 「新版破産管財手続の運用と書式」
 最高裁判所第二小法廷昭和43年3月15日判決(昭和42年(オ)第124号)

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