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破産手続開始と猟銃の所持の許可。

 破産手続開始と猟銃の所持の許可。  

 相談の概要

 いわゆる中間山地に住んでおり,自宅の周りも山に囲まれています。小さな集落で,40代の男性は私一人だけ,近所の方々は私の両親も含めて皆70歳代以上です。このような状況で,昨年まで私の父が有害鳥獣の駆除を地域の皆様にお願いされ,猟銃の所持許可等を得て有害鳥獣駆除に携わってきました。父も高齢となり,昨年から私が交代する形で私が猟銃の所持許可等を得て,昨年から有害鳥獣の駆除に携わっているのですが,最近私の事業が厳しくなってきており,今すぐどうということはありませんが,将来破産するかも知れません。破産した場合に私の猟銃の所持許可はどうなるのでしょうか。         

 ご回答

 破産した場合には,都道府県公安委員会があなたの猟銃の所持許可を取り消すことがあります。ただし本当に取り消されるかどうかまでは分かりません。

 有害鳥獣駆除に用いる場合には,住所地を管轄する都道府県公安委員会の許可を得て,猟銃を所持することができます(銃砲刀剣類所持等取締法3条1項3号,同法4条1項1号)。
 しかし,銃砲刀剣類所持等取締法は,「破産手続を開始し復権を得ない者」について,都道府県公安委員会は銃砲刀剣類の所持の許可を取り消すことができると規定していますので(銃砲刀剣類所持等取締法11条1項2号,同法5条1項2号),あなたが自己破産を申し立てた場合には,都道府県公安委員会から猟銃の所持許可を取り消されることがあります。また,「破産手続を開始し復権を得ない者」であることを理由に猟銃の所持許可を取り消された場合,その後5年間は猟銃所持の許可を受けられないことになります(銃砲刀剣類所持等取締法5条1項7号)。
 では,実際に許可が取消になるかどうかですが,これは法令上都道府県公安委員会の裁量によるようなので何とも言えません。警察庁生活安全局保安課長による通達(平成21年11月18日警察庁丁保発第147号)は,「破産手続を開始し復権を得ない者」を所持の不許可事由とした趣旨として,「破産手続開始の決定を受けた者(以下「破産者」という。)については、自己の財産を自由に管理し、又は処分することができないことから,その所持する銃砲刀剣類による事故が発生し,他人に損害を与えた場合,被害者に対する損害の賠償責任を十分に全うすることができないものと考えられる。そこで,破産手続開始の決定を受けて復権を得ていないことを欠格事由としたものである。」としていますが,破産手続に携わってきた弁護士としては,正直この記載には違和感を覚えます。復権(破産法255条,同法256条)を果たせば破産者は免責されていますが,かといって破産者の資産が増えるわけではありませんし,そもそも銃のもつ強力な殺傷力からすれば,「猟銃によって事故が発生し,他人に損害を与えた場合」には,破産者でなくても賠償責任を全うすることはできないと思うからです。その意味では,破産したかどうかより,狩猟に関する損害保険に加入しているかどうかの方がよほど重要であろうと思います(鳥獣の保護及び狩猟の適正化に関する法律58条3号,鳥獣の保護及び狩猟の適正化に関する法律施行規則67条)。
 また,破産手続が開始されたことを公安委員会が探知しても,復権前に許可取消がなされるかどうかも分かりません。復権が先になれば「破産手続を開始し復権を得ない者」に該当しないので,許可取消はできなくなるのではないかと思います。ですから,銃砲刀剣類所持等取締法の破産手続に対する対応は,今一つ合理性を欠くのではないかと感じます。
 さらに,あなたのように,別に狩猟をしたいわけではなく,有害鳥獣の駆除という半ば公共の要請でやむなく狩猟をおこなっている方について許可を取り消せば,地域の公共の福祉に反することになってしまいます。
 現実的な対処としては,もし破産申立ての必要が生じたときは,あらかじめ都道府県公安委員会に猟銃の所持許可について相談することになるでしょう。    
弁護士 田上尚志(平成25年11月24日) 

 参考文献・HP

 警察庁生活安全局保安課長による通達(平成21年11月18日警察庁丁保発第147号)

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