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島根県益田市の法律事務所。田上法律事務所です。

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被後見人が消費者金融から借金してしまった。


 相談の概要

 社会福祉協議会で成年後見を担当しています。私の勤務する○×市社会福祉協議会は法人後見を行っており,私が担当者として後見実務を処理しています。
 ところが先日,○×市社会福祉協議会が後見人に選任されている被後見人の方の自宅で消費者金融からの請求書が見つかりました。この方は1年ほど前に知的障がいがあるということで後見に付されたのですが,まだ40代でご自宅で生活されています。請求書を見ると,契約日が2ヶ月くらい前の日付になっており,その日に貸付を受けた20万円について,約定の返済日が過ぎているので,すぐに連絡をよこすようにと書いてありました。驚いてこの方に本当にお金を借りたのか,また,借りたのであればいつ借りたのか尋ねたところ,「2ヶ月くらい前に消費者金融業者の○×支店に行き,そこで契約して20万円借りた。ほとんどをその日のうちに友達と飲み食いに使った。残りはそこの戸棚の封筒に入っている。」との返事でした。戸棚を探したところ,本当に封筒があり,1万2850円だけ残っていました。
 今後どうすればよいでしょうか。
        

 ご回答
 
 借りたお金が1万2850円しか残っていないのであれば,その1万2850円を返せばそれで足りると思います。

 成年後見に付された方(「被後見人」といいます。)は,行為能力が制限され,その行為は日用品の購入その他日常生活に関する行為を除いて取り消すことができるようになります(民法9条)。そして,後見人は被後見人の財産に関する行為の全てについての代理権(これを「包括代理権」といいます。)を有しますから(民法859条1項),被後見人の行為の取り消しは,後見人からすることができ(民法120条),この事案でも後見人である○×市社会福祉協議会から被後見人と消費者金融業者との金銭消費貸借契約を取り消すことができます。
 そして,○×市社会福祉協議会が,被後見人と消費者金融業者との金銭消費貸借契約を取り消した場合,金銭消費貸借契約ははじめから無効だったことになりますから(民法121条本文),この被後見人の方は消費者金融業者に対して借り受けた金銭を不当利得として返還すべきことになります(民法703条,704条)。
 しかし,被後見人の行為を取り消す場合には返還義務の範囲は現存利益に限定されており(民法121条但書),かつ,判例(大審院第一民事部昭和14年10月26日判決,昭和14年(オ)第464号利得金償還請求事件,大審院民事判例集18巻17号1157頁)は,被後見人が浪費した場合には現存利益はなく,現存利益の有無の立証責任はその存在を主張する者が負うとしていますので,この事案だと,明らかに浪費ですから,○×市社会福祉協議会は,被後見人と消費者金融業者との金銭消費貸借契約を取り消した後,残っている1万2850円を返せばよく,仮に消費者金融業者がまだお金が残っていると主張するのであれば,○×市社会福祉協議会がそれ以上にお金がないことを証明しなければならないのではなく,その消費者金融業者がお金がもっと残っていることを証明しなければならないということになります。
 なお,民法は,制限行為能力者(未成年者,成年被後見人,被保佐人及び民法17条1項の審判を受けた被補助人)が行為能力者であることを信じさせるため詐術を用いたときは,その行為を取り消すことができないとしていますが(民法21条),知的障がいがある場合には消費者金融業者において貸付審査をする際に通常人と比べて判断能力が十分でないことはすぐに分かるはずであり,少なくとも成年後見の場合には,この条文が適用になることはをないと思います。
     
弁護士 田上尚志(平成27年01月22日) 
参考文献
 
 民法総則 第4版 (四宮和夫,弘文堂)
 大審院民事判例集(判例秘書internet)

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