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島根県益田市の法律事務所。田上法律事務所です。

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外国人労働者のパスポートの保管。


 相談の概要

 工場を経営しているのですが,折からの人手不足のため,外国人労働者を雇用しようと考えています。
 しかし,同業者の友人に聞いたところでは,外国人労働者が何の前触れもなくいなくなってしまい,納期に間に合わなかったことがあったとのことです。このようなことが起こっては心配なので,雇用した外国人労働者が私の同意なく帰国したり転居したりしないようにパスポートを預かろうと思うのですが,何か問題がありますか。       

 ご回答

 雇用した外国人労働者が私の同意なく帰国したり転居したりしないようにすることを目的にパスポートを預かったとしても,その外国人労働者がパスポートを返して欲しいと言ってきたら,返すしかありません。

 外国人労働者が本国から来日する際の渡航費用を立て替えた事業者が,同渡航費の返済が済むまでは、契約どおりに就労してもらうことを保障するためにパスポートを預かっていたため,当該外国人労働者からのパスポートを返還申出に対し,渡航費用の返済がないのでこれを拒んだという事案について,裁判所は公序良俗に反するものとして(民法90条),当該事業者に対し外国人労働者への慰謝料等の損害賠償を命じた裁判例があります(神戸地方裁判所姫路支部平成9年12月3日判決。判例秘書判例番号:L05250606,労働判例1998.3.15(730)40頁。)
 この裁判例の判断に依拠すれば,あなたが考える目的でパスポートを預かっても外国人労働者から返還を求められれば直ちに返還するほかなく,もしこれを拒めば公序良俗違反として損害賠償を請求されるおそれもあります。
 また,労働基準法5条は「使用者は、暴行、脅迫、監禁その他精神又は身体の自由を不当に拘束する手段によつて、労働者の意思に反して労働を強制してはならない。」と規定しているところであり,預かったパスポートを返さないということであれば,この規定に違反すると思われますし,さらに,あなたの考える目的でパスポートを預かることを約束してこれを預かること自体,「労働者及び使用者は、労働契約を遵守するとともに、信義に従い誠実に、権利を行使し、及び義務を履行しなければならない。」と規定した労働契約法3条4項,「労働者及び使用者は、労働契約に基づく権利の行使に当たっては、それを濫用することがあってはならない。」と規定した労働契約法3条5項に違反するおそれがあります。  
弁護士 田上尚志(平成30年10月20日) 

 参考文献・HP


 判例秘書インターネット
 労働判例1998.3.15(730)

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