田上法律事務所 弁護士紹介

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保険指導における録音,弁護士同伴の可否。

 保険指導における録音,弁護士同伴の可否。  

 相談の概要

 開業医をしています。
 今度保険指導で個別指導を受けることになりましたが,指導内容を録音したり,弁護士の同伴を依頼することはできますか。        

 ご回答

 できます。

 個別指導とは,保険医療機関等に対する個別指導のことで,「厚生労働大臣若しくは地方社会保険事務局長又は都道府県知事が,健康保険法(大正11 年法律第70号)第73 条(同法及び船員保険法(昭和14 年法律第73号)において準用する場合を含む。),国民健康保険法(昭和33年法律第192 号)第41条及び老人保健法(昭和57年法律第80号)第27条(同法において準用する場合を含む。)の規定に基づき,保険医療機関(特定承認保険医療機関を含む。以下同じ。)若しくは保険薬局(以下「保険医療機関等」という。)又は保険医若しくは保険薬剤師(以下「保険医等」という。)に対して行う健康保険法,船員保険法,国民健康保険法及び老人保健法による療養の給付若しくは医療若しくは入院時食事療養費,特定療養費若しくは家族療養費の支給に係る診療(調剤を含む。以下同じ。)の内容又は診療報酬(調剤報酬を含む。以下同じ。)の請求に関する指導のうち,個別に面接懇談方式で行うもの」を言います(指導大綱(健康保険指導大綱)「第1 目的」参照)。
 この個別指導は,いわゆる行政指導(行政機関がその任務又は所掌事務の範囲内において一定の行政目的を実現するため特定の者に一定の作為又は不作為を求める指導,勧告,助言その他の行為であって処分に該当しないもの。行政手続法2 条6 号)です。さらに詳述すると,行政指導には@助成的行政指導(私人に情報を提供し,その活動を助成するもので,農業者の作付転換指導やそれに伴う技術指導等,各種の知識の提供等がこれに当たる。ただ,これらの知識・情報提供は,政策目的実現の一手段として行われる点で,もっぱら私人の活動のためにする単なるサービスとしての情報提供と区別される。),A規制的行政指導(行政の相手方の自由意思による不利益の受諾を前提に,その活動を規制し,もって一定の行政目的を実現するために行うもの。),B調整的行政指導(私人間の紛争の解決ないし防止のために行われるもの。)の3類型がありますが,保険指導は個別指導も含めて@助成的行政指導に該当します。
 行政指導については,行政手続法32条1項で「行政指導にあっては,行政指導に携わる者は,いやしくも当該行政機関の任務又は所掌事務の範囲を逸脱してはならないこと及び行政指導の内容があくまでも相手方の任意の協力によってのみ実現されるものであることに留意しなければならない。」と規定され,同32条2項で「行政指導に携わる者は,その相手方が行政指導に従わなかったことを理由として,不利益な取扱いをしてはならない。」と規定されていますので,録音をすることは基本的に自由であるといえます。
 むしろ,指導大綱(健康保険指導大綱)「第2 指導方針」において「指導は,保険医療機関等及び保険医等に対し「保険医療機関及び保険医療養担当規則」(昭和32年厚生省令第15号),「保険薬局及び保険薬剤師療養担当規則」(昭和32年厚生省令第16号),「療養の給付,老人医療及び公費負担医療に関する費用の請求に関する省令」(昭和51年厚生省令第36号),「健康保険法の規定による療養に要する費用の額の算定方法」(平成6年3月厚生省告示第54号),「入院時食事療養費に係る食事療養の費用の額の算定に関する基準」(平成6年8月厚生省告示第237号),「老人保健法の規定による医療並びに入院時食事療養費及び特定療養費に係る療養の取扱い及び担当に関する基準」(昭和58年1月厚生省告示第14号),「老人保健法の規定による医療に要する費用の額の算定に関する基準」(平成6年3月厚生省告示第72号)等に定める保険診療の取扱い,診療報酬の請求等に関する事項について周知徹底させることを主眼とし,懇切丁寧に行う。」と規定されていること,開業医の先生方も行政の担当者にしても極めて多忙であることからすれば,個別指導は日頃の疑問点を解消する機会であるとも考えられ,指導担当者に質問し,積極的に指導を受けることが制度趣旨に適うといえます。そうすると,録音については,それが許容されるかどうかではなく,むしろ積極的に録音し,後日これを復習することによって指導の効果をより高めることが必要ではないかと思います。

 弁護士の同伴についても,前述の行政手続法の規定からすれば,自由に認められるべきことになります。実際,平成19年11月22日,当時の厚生労働省医療指導監査室長補佐から「国民の権利を守る弁護士の同席はやむを得ない。録音も拒否しない。」「事前通告も求めない。」とのコメントがなされているようです。
 ただし,前述の個別指導の助成的行政指導の趣旨を全うするには,同伴をするにしても健康保険制度の専門家の助力が必要であることから,当事務所では,各県保険医協会からの紹介がある場合に同伴を受任することとしています。     
弁護士 田上尚志(平成24年11月09日) 

 参考文献・HP


 塩野 宏著 有斐閣 「行政法T 第五版」200頁

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