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島根県益田市の法律事務所。田上法律事務所です。

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遺言事項・遺言の方式。


 相談の概要

 20代の独身男性です。
 私には兄弟や従姉妹がいますが,孫の中でも祖父に特別に可愛がられ,子供の頃から隠れてお年玉を2回もらっていたり,大学の合格祝い等も兄弟や従姉妹よりもかなり多い金額をもらっていました。
 1ヵ月前,この祖父が亡くなったのですが,危篤状態で親族が皆祖父の病室に集まった際,祖父は「自分の喪が明けたら○○雄(私の名前です。)と美○子(私の従姉です。)とを結婚させるように。そして,○○雄に全財産を渡すさせる。これは遺言である。」と最後の言葉を告げて亡くなりました。私は美○子のことが子供の頃から好きでしたし,祖父はかなりの資産を有していましたので,私は祖父の言葉に従って美○子と結婚し,祖父の財産を受け継ぎたいと思うのですが,美○子は「○○雄さんと結婚する気持ちはない。私には別に好きな人がいる。」と言い出し,また,その場に居合わせた親戚たちも,「○○雄に全財産を渡すなど認めない。」と言っています。
 私は,一家の主だった祖父の遺言である以上,親族の者はこれを守らなければならないと思いますが,美○子や親戚たちの言い分は通るものなのでしょうか。     

 ご回答
 
 通ります。お気の毒ですがあなたに祖父の方の財産を譲り受ける権利はありませんし,美○子さんにもあなたと結婚する法的義務はありません。

 そもそも,どのような事柄でも遺言として法的効力を生じるわけではありません。遺言は法定事項に限りなすことができる行為であって,法定事項以外の事柄を遺言しても法的な効果は生じません。
 そして,遺言ができる法定事項は,以下のとおりです。
 1.認知(民法781条2項)
 2.未成年後見人の指定(民法839条1項)
 3.未成年後見監督人の指定(民法848条)
 4.遺贈(民法964条)
 5.遺留分減殺方法の指定(民法1034条但書)
 6.一般財団法人設立の意思表示(一般社団法人及び一般財団法人に関する法律152条2項)
 7.一般財団法人に対する財産の拠出(一般社団法人及び一般財団法人に関する法律158条2項)
 8.相続人の廃除及び廃除の取消(民法893条,同894条)
 9.相続分の指定及び指定の委託(民法902条)
 10.特別受益者の持戻免除(民法903条3項)
 11.遺産分割方法の指定,指定の委託,遺産分割の禁止(民法908条)
 12.共同相続人間の担保責任の指定(民法914条)
 13.遺言執行者の指定,指定の委託(民法1006条)
 14.祭祀主催者の指定(民法897条)
 15.信託の設定(信託法2条,同3条)
 以上のとおり,誰かと誰かを結婚(法律的には「婚姻」ですが)させることは遺言できる事項には含まれておりません。したがって,「あなたと美○子さんとを結婚させる」旨の御祖父様の最後の言葉は,御祖父様の希望,要望としては意味があるかも知れませんが,法律的な意味での「遺言」には該当せず,美○子さんがその言葉に拘束されることはなく,あなたと結婚する義務はないということになります。

 次に,遺言民法の定める方式に従わなければすることができない要式行為とされています(民法960条)。民法が規定する遺言の方式にはいくつか種類がありますが,すべての遺言について共通していることは書面にして署名・捺印しなければならないということであり,また,自筆証書遺言(民法968条)を除いて証人が必要だということです(民法967条〜民法984条)。本件では御祖父様の発言があるだけで,何の書面もありませんし,当然,誰も証人として署名・捺印していません。
 したがって,「あなたに全財産を渡す」旨の御祖父様の最後の言葉も,御祖父様の希望,要望としては意味があるかも知れませんが,法律的な意味での「遺言」には該当せず,あなたが御祖父様の財産を独占することはできません。また,仮にそのような趣旨の遺言書が別に出てきたとしても,御祖父様の相続人が遺留分減殺請求権を行使した場合には(民法1028条,同1031条,同1042条),あなたは御祖父様の財産を独占することはできないことになります。   
弁護士 田上尚志(平成25年07月06日) 

 参考文献・HP

 遠藤 浩・川井 健・原島重義・広中俊雄・水本 浩・山本進一編 有斐閣双書「民法(9)相続[第4版増補版

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