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島根県益田市の法律事務所。田上法律事務所です。

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破産開始決定と法人住民税均等割。


 相談の概要

 法律事務所の事務職員です。
 事務所の破産関係の本で勉強したところ,「法人住民税の均等割の課税を回避するために破産管財人は事業の廃止届(異動届)を地方自治体に提出すべきである。」というようなことが書いてあったのですが,事務所の税務をお願いしている税理士事務所に問い合わせたところ,事業の廃止届(異動届)を提出したところで均等割は免除されないと言われました。どちらが正しいのでしょうか。         

 ご回答

 破産会社について法人住民税の均等割が課税されなくなるかどうかは当該地方団体によって取扱いがまちまちです。
 したがって,破産管財人から自治体に対して問い合わせてみるしかありません。

 地方団体の意味については地方税法に定義規定があり,都道府県,都特別区及び市町村とされています(地方税法1条1項1号,同2項)。地方自治法上地方公共団体の定め方とは若干異なっており,地方自治法上の普通地方公共団体(地方自治法1条の3第2項)及び特別地方公共団体のうちの東京都特別区(地方自治法1条の3第3項))がこれに該当します。地方住民税は,その住民その他の地方団体と何らかの密接な関係をもっている個人及び法人に対して,広く課する租税であり,その基礎にある思想は,危険分担思想,すなわち地方団体の住民等は当然にその経費を分担すべきであるという考え方です。
 住民税には個人住民税と法人住民税があり,いずれも都道府県民税と市町村民税とからなっています。すなわち,法人住民税には法人都道府県民税と法人市町村民税があります。このうち,法人都道府県民税には,均等割(地方税法23条1項1号,所得割(地方税法23条1項2号),法人税割(地方税法23条1項3号),利子割(地方税法23条1項3号の2),配当割(地方税法23条1項3号),株式等譲渡所得割(地方税法23条1項4号)が,法人市町村民税には,均等割(地方税法292条1項1号),所得割(地方税法292条1項2号),法人税割(所得税法292条1項3号)があります。
 地方税法上,法人都道府県民税も法人市町村民税も,均等割は「均等の額によつて課する」と規定されています(地方税法23条1項1号,同292条1項1号)。すなわち,法人住民税均等割は,地方団体内に事務所又は事業所を有する法人,地方団体内に事務所・事業所はないが寮,宿泊所,クラブその他これらに類する施設(以下「寮等」といいます。)を有する法人及び地方団体内に事業所又は寮等を有する権利能力のない社団・財団のうち一定の要件を備えるものに対して,均等額で課されます(地方税法24条1項3号,4号,6項,294条1項3号,4号,8項)。また,均等割の課税標準は,都道府県の場合も市町村の場合も,法人の資本等の金額の多寡に応じてスライドするように定められています(地方税法52条1項,2項,312条1項乃至3項)。

 法人が事業を停止し,休眠届を地方団体に提出したり,あるいは破産手続が開始され,廃止届を提出したとしても,均等割が課税されなくなったりあるいは免除する旨の規定は地方税法にはないようです。
 この点,判例(最高裁第三小法廷昭和62年4月21日判決(昭和59年(行ツ)第333号))は,法人住民税の内の均等割は,当該自治体内に「事務所又は事業所を有することに伴い資本金額等に応じ均等に課せられるものであり,破産法人が破産の目的の範囲内においてなお存続することに伴い負担すべき経費に属し,その債権は財団債権に当たるというべきである」と判示しており(現行破産法上は,148条1項2号の財団債権となる。),この判例の原審である大阪高等裁判所昭和59年9月27日判決(昭和58年(行コ)第37号)は「破産法人は,破産手続が終了し清算が完了するまでの間は,裁判所の許可を得て営業を継続している場合はもとより,これを継続していない場合も,その事業は存在しており,また,その事務所または事業所は,たとえその実質を備えていなくても,破産宣告当時の登記簿上の本店または営業所に存在しているとみるのが相当であり」と述べているので,少なくとも判例上は,地方自治法の解釈として,法人が事業を停止し,休眠届を地方団体に提出したり,あるいは破産手続が開始され,廃止届を提出した場合に,均等割が課税されなくなったりあるいは免除されるとしているわけではないようです。実際,日弁連も,2006年2月16日付「倒産法人に対する法人住民税均等割課税に関する意見書」において,「破産法人に対する法人住民税均等割の課税は,遅くとも事務所,事業所又は寮等の保有を物理的に失った時以降,@これを廃止し,又はA資本等の金額にかかわらず,これがない又は1,000万円以下の法人とみなす改正をすべきである。」「破産法人に対しても,清算結了に至るまで,法人住民税均等割が課される。その事務所等は,事業継続をする僅かな事案を除けば,破産手続開始時には既に営業が廃止され,従業員も解雇済で,人的要素を欠いており,物理的施設としての事務所等は残っていても,最早,人的物的な有機的一体性を保った施設ではない。破産管財人はこれらを売却等又は賃貸人への返還をするから,物理的施設としての事務所等も消滅してしまう。」「従って,遅くとも物理的施設としての保有状態がなくなった段階では,課税物件は存在せず,法人住民税均等割は課税し得ない筈である。ところが,実務上は,清算結了に至るまでは,少なくとも破産法人の登記簿上本店所在地が存する都道府県税事務所長及び市町村長(以下「課税庁」)から均等割課税がされる。」「その根拠は,法人である以上,事務所がなければならず,物理的施設の有無にかかわらず,登記簿上本店に事務所があるとの考え方にある。管財業務を行う弁護士の事務所は,破産法人の事務所ではないから,これを破産法人の課税物件とすることはできない。もっとも,課税庁の担当者レベルでは,破産管財人事務所を破産法人事務所と理解しているようであるが,そうであれば,課税庁が変更し,事務所の異動届も要する筈であるから,破産法人本店所在地の課税庁が破産法人宛に課税するのは理屈が通らない。」「この問題につき,最高裁判所昭和62年4月21日判決(民集41-3-329)は,「均等割は事務所又は事業所を有することに伴い資本等の金額及び従業者数に応じて課税されるから,破産法人が破産目的の範囲内において存続することに伴い負担すべき経費に属し,財団債権に当たる」と述べ,その原審大阪高等裁判所同59年9月27日判決(判時1137号42頁)は,「破産法人は,破産手続が終了して清算が完了するまでの間は,営業を継続していない場合でも,その事業は存在しており,また,その事務所又は事業所は,たとえその実質を備えていなくとも,破産宣告当時の登記簿上の本店又は営業所に存在している」と述べる。」「清算が結了せず,その登記もされていない以上,抽象的には(権利義務の帰属主体としての)法人格が残っているのだから,事務所としての物理的実質があるか否かにかかわらず,均等割が発生するとの趣旨である。破産手続開始後の財団債権に当たるべき租税債権につき,新破産法148条1項2号は「破産財団の管理・・・・に関する費用の請求権」(旧破産法47条2号但書では「破産財団に関して生じたものに限る」)と規定しているので,実体のない登記簿上本店が管理客体である破産財団に属するといえるのか甚だ疑問であるが,この点は破産法上の問題であるので,これ以上は論じない。」「判例の考え方によると,事務所等の概念は,事業継続中は物理的な実体概念であるが,事業廃止後は規範概念ないし擬制概念に転化する。人格ある者は,地方行政上の便益の提供を受けている筈であり,それに応じた担税力がある筈であるから,人格消滅に至るまで均等割課税を免れないということになる。」「破産法人に対する均等割課税自体は仮に止むを得ないとしても,その課税標準が継続法人と同じであることには,合理的根拠が全くない。債務超過でも従業者を抱えて事業継続している以上,純資産を回復する余地が皆無とまでは言えず,地方行政上の便益を実際にも受けているから,均等割を課税されるのは当然であろう。」「しかし,事業を廃止し,物理的にも事務所等を失った破産会社について,名目的な資本等の金額など何の意味もない。純資産回復の抽象的余地も,それに見合う地方行政上の便益を受ける余地もないからである。破産法人独自の事業活動ではなく,管財人事務所における債権回収や配当といった弁護士業務があるだけなのに,資本等の金額(及び従業者数)に基づく均等割額を清算結了に至るまで支払続けなければならないのは,不合理と言う外ない。」「この不合理を軽減するために,少なくとも破産法人に関する限り,資本等の金額にかかわらず,これがない法人及びこれが1,000万円以下の法人としての取扱に改正すべきである。この場合,現行地方税法に基づく均等割の合計標準税率は年7万円であり,少なくとも受益の程度に応じた負担としての公平性は保ち得る。」としています。

 この点,私が島根県に対して法人が事業を停止し,休眠届を地方団体に提出したり,あるいは破産手続が開始され,廃止届を提出した場合に法人県民税均等割が非課税とされたりあるいは免除されるか問い合わせてみたところ,島根県では,休眠届を提出したり,廃止届を提出したりした法人に対して申告及び納税を猶予ないし留保するものの,非課税としたり免除するわけではなく,申告及び納税の猶予ないし留保は,あくまで島根県の徴税義務の便宜のためであって,破産手続において破産管財人が選任され,法人県民税を申告納税できるようになったのであれば(破産法74条),速やかに申告し,納税してもらいたいとのことでした。
 また,浜田市に対して同様の問い合わせをしたところ,浜田市では,地方税法294条1項3号の「事務所」「事業所」に該当するためには,@人的設備があること(事業に対し労務を提供することにより事業活動に従事する自然人が存在すること),A物的設備があること(事業活動が有効適切に実現されるための有形の施設として,単に場所が定まるだけでなく,事業が行われるのに必要な土地,建物があり,その中に機械設備又は事務所設備等,事業を行うのに必要な設備を設けていること),B事業の継続性が認められること(その場所において行われる事業がある程度の継続性をもつものであること)の3要件を具備することが必要であると判断しているようであり,単に法人が事業を停止し,休眠届を地方団体に提出したり,あるいは破産手続が開始され,廃止届を提出しただけでは足りず,実質的に事業の再開が未定ないし不可能となった場合に均等割りを課さないものとし,申告も不要とする取扱いだということでした。浜田市の場合には,当該破産法人の事務所ないし事業所の事務機器や工作機械がリース業者に返還されたり,大部分売却された場合に廃止届を提出することにより,法人市民税が非課税となるようです。

 以上のような状況ですので,当該事件に応じて関係地方団体に問い合わせ,地方住民税均等割りの申告及び納税の要否を判断すべきだということになりそうです。    
弁護士 田上尚志(平成25年09月16日) 

 参考文献・HP


 金子 宏「租税法」(第18版) 弘文堂
 最高裁第三小法廷昭和62年4月21日判決(昭和59年(行ツ)第333号)(判例秘書登載のもの)
 大阪高等裁判所昭和59年9月27日判決(昭和58年(行コ)第37号)(判例秘書登載のもの)
 日弁連2006年2月16日付「倒産法人に対する法人住民税均等割課税に関する意見書」

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