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島根県益田市の法律事務所。田上法律事務所です。

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保証人が求償権により破産手続に参加する場合。


 相談の概要

 知人が経営する会社の連帯保証人をしていました。
 その会社は平成17年末ころで事業継続不可能な状態に陥り,その後紆余曲折を経て,平成22年5月15日に破産開始決定がされました。
 その一方で私は,連帯保証契約を締結していた金融機関から保証債務の履行を求められ,平成19年8月16日にひとまず250万円をその金融機関に支払い,その後平成20年12月から今日まで分割でその金融機関に支払いをしています。ちなみに,平成20年12月から平成22年5月14日までに支払った金額は12万円で,平成22年5月15日から今日までの間に24万円ほど支払っています。
 このことを友人の弁護士に話をしたら,債権届出が未了であれば届出をした方が良いと言われ,債権届出をすることにしたのですが,いくらを届け出れば良いでしょうか。また,債権届出期間というものがあるようですが,その期間を過ぎていても大丈夫でしょうか。         

 ご回答

 262万円を届け出ることになります。
 なお,債権届出は,破産法上は債権届出期間に届け出なければならないとされていますが(破産法111条1項),実務の運用上は一般調査期日までは届出を認める運用がされている場合があるので,届出は不可能ではないと思います。

 破産手続きは,簡単に説明すると,債務者が債権の全額を支払うことが不可能となった場合に,破産者の財産をお金に換えて,それを適正かつ公平に債権者に分配しようとする手続きです(破産法1条,15条)。すなわち,債権者は,破産手続きにおいて分配すなわち配当として債権の一部弁済を受けられる可能性がありますが,そのためには裁判所に対して破産債権を届け出なければならないとされており(破産法111条1項),その届出は債権届出期間において行わなければならないとされています(破産法111条1項)。なお,債権届出期間は裁判所が決定するものであり,原則として破産開始決定と同時に行うとされています(破産法31条1項〜3項)。
 もっとも,大阪地方裁判所及び相当数の地方裁判所では,債権届出期間経過後であっても,一般調査期日前に届け出られた破産債権であれば,一般調査期日における調査の対象とし,事実上届出を認める運用を行っているようです。なお,ここに一般調査期日とは,破産管財人が破産債権の額や種類について認否を行う期日です(破産法121条,117条1項)。
 本件では,一般調査期日前か一般調査期日終了後か明らかでないのですが,素人の方が保証人になっている場合,破産管財人が事実上届出を促すこともありますので,おそらく,一般調査期日は終了していないのではないかと思います。
 さて,主債務者が破産手続開始決定を受ける前に保証人が保証債務を履行した場合,保証人は求償権を取得し(民法459条,462条),この求償権をもって破産手続きに参加することになります。本件では,破産手続開始決定を受ける前に262万円の弁済がなされていますので,届出額は262万円になると思います。
 他方で,破産開始決定後に24万円が支払われているものの,破産法104条2項(「前項の場合において、他の全部の履行をする義務を負う者が破産手続開始後に債権者に対して弁済その他の債務を消滅させる行為(以下この条において「弁済等」という。)をしたときであっても、その債権の全額が消滅した場合を除き、その債権者は、破産手続開始の時において有する債権の全額についてその権利を行使することができる。」)及び4項(「第一項の規定により債権者が破産手続に参加した場合において、破産者に対して将来行うことがある求償権を有する者が破産手続開始後に債権者に対して弁済等をしたときは、その債権の全額が消滅した場合に限り、その求償権を有する者は、その求償権の範囲内において、債権者が有した権利を破産債権者として行使することができる。」)の規定により(ちなみに,破産法104条1項は「数人が各自全部の履行をする義務を負う場合において、その全員又はそのうちの数人若しくは一人について破産手続開始の決定があったときは、債権者は、破産手続開始の時において有する債権の全額についてそれぞれの破産手続に参加することができる。」と規定しています。),債権者が破産手続開始決定時における債権額全額について破産債権として権利を行使しうることになりますので,この24万円については,破産手続においてはあなたは権利行使できません。
 そもそも民法は,連帯債務,不可分債務の場合に,債権者は各連帯債務者及び不可分債務者に対して全部の履行を請求でき(民法432条,民法430条),連帯債務者ないし不可分債務者の全員又はそのうちの数人が破産手続開始の決定を受けたときは、債権者は、その債権の全額について各破産財団の配当に加入することができる旨規定しています(民法441条,民法430条)。破産法104条1項及び104条2項は,民法441条の規定の趣旨を明確化し,手続開始時現存額主義を規定するとともに,民法441条の趣旨を連帯債務や不可分債務を負担する者以外の全部義務者(同一の給付につき各人が全部の履行をする義務を負う場合のこの義務を負う者)に拡張する趣旨であり,104条3項と104条4項は,全部義務者が破産した場合における他の全部義務者の手続参加について規定し,もってこれらの権利関係を調整するものです。ですから,破産開始決定後に弁済した部分については,仮に届け出たとしても,管財人によって異議を述べられてしまうと思います。

 したがって,破産手続開始決定前に弁済した262万円を求償債権として届け出ることになります。     
弁護士 田上尚志(平成25年01月09日) 

 参考文献・HP


 大阪地方裁判所・大阪弁護士会破産管財運用検討プロジェクトチーム編集 新日本法規 「新版破産管財手続の運用と書式」
 法務大臣官房参事官 小川秀樹編著 商事法務 「一問一答 新しい破産法」
 竹下守夫編集代表 上原敏夫・園尾隆司・深川卓也・小川秀樹・多比羅誠編集 青林書院 「大コンメンタール破産法」

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